東和大学 総合教育センター 所長・教授
正平 辰男 氏
1940(昭和15)年生まれ。福岡県嘉麻市(旧山田市)出身。純真短期大学特任教授。
福岡県教育庁社会教育課主幹社会教育主事、同県立社会教育総合センター副所長などを歴任。2003(平成15)年、東和大学総合教育センター長・特任教授、2008(平成20)年より現職。1983(昭和58)年より「通学キャンプ」を企画・実践。1989(平成元)年度より旧庄内町立生活体験学校での年間20回の通学合宿の企画・実践に参画。
地域社会教育賞 受賞
1983(昭和58)年、飯塚市・旧庄内町で「通学キャンプ」が企画・実践されました。今では全国で取り組まれるようになった通学合宿の原型の誕生でした。旧庄内町は福岡県のほぼ中央に位置する筑豊の旧炭坑町です。炭坑の閉山によって、わずか2年の間に2万人を超えた人口が半減しました。地域の決定的な崩壊でした。その後、他の組織と同様、子ども会指導者協議会も、役員になり手がないほど形骸化していきます。当時の庄内町教育長朝原良行氏は、子ども会活動の停滞に心を痛めていました。1979(昭和54)年、朝原氏に求められて子ども会指導者協議会の会長に就任したのは、私でした。私は、町当局には町有林の開放を、子ども会指導者を中心に教員や保護者たちには、「庄内町青少年の森・教育キャンプ場作りの運動」を提案しました。この提案に結集した一群の大人達は、ノコ、鎌、スッコップなど手持ちの道具を持ち寄って荒仕事を進めました。毎週土曜日、荒れ放題の町有林で作業をした後、自力で建てた小屋に泊まり込んで、「子どもに長期のキャンプ体験させたい」と議論を重ねました。長期のキャンプに、「通学」という全く異なる概念を組み合わせて、長期通学キャンプというプログラムの立案実施にこぎつけました。
最大の難題は、長期のキャンプの現場指導を誰が担うのかという問題でした。長期キャンプは、行政に頼らず自力でやるというキャンプ場作りの炉辺談話から誕生したプログラムです。しかし、自力でやるといっても、各々の仕事を抱えているボランティアではキャンプの全てを支えることはできません。そこで、当時まであった「派遣社会教育主事」制度に乗って、私自身が庄内町に社会教育主事として着任して長期キャンプを担うことになります。この制度は、県費負担の社会教育主事を市町村に派遣して、派遣先の社会教育を振興しようというもので、市町村にとっては有り難い仕組みでした。初年度は5泊、2年次は9泊、3年次には10泊の通学キャンプが実施できました。いずれも2部構成のプログラムでした。前半に2泊、3泊、4泊とキャンプし、後半の3泊、6泊、6泊をキャンプ場から通学するというもので、後に10泊が定番として定着しました。宿舎の無い10泊は、それだけでも厳しいのに、そのうちの6泊を通学するのは子どもにとって高いハードルでした。しかし、子どもの参加希望者は増え続けました。6年間続いた通学キャンプでしたが、ついに庄内町は全国で初めて通学合宿専用施設の建設に踏み切ります。
1989(平成元)年4月、庄内町立生活体験学校が完成しました。この時、6泊7日の通学合宿を年間20回実施するという全国モデルが出現しました。1995(平成7)年、福岡県教育委員会が3年間の委託事業を開始します。この結果、県内の通学合宿は24事業に拡大して3倍に増えました。国も、静岡県など各県の教育委員会も通学合宿の普及拡大に乗り出します。国立教育研究所社会教育実践研究センターが3回にわたって通学合宿全国調査を実施しました。2006(平成11)年度の調査では、実施団体数が349、通学合宿事業数が808であることが分かりました。福岡県では、教育力向上福岡県民運動の一環として、通学合宿は再び拡充対象のプログラムに位置づけられます。2010(平成23)年度は、県下60市町村のうち53市町村(113校区)で実施されました。子どもたちは、親元を離れて仲間と暮らす、暮らしに必要な仕事を自力でやってしまうという、単純で明快なプログラムに達成感を感じました。合宿しながら学校に通うという単純な体験活動プログラムでしたが、参加した全ての人々が共感をもって通学合宿を広めていったと言えるでしょう。その火源は福岡県でした。その勢いは「燎原の火の如く」と形容するに足るものでした。
東和大学 総合教育センター 所長・教授
正平 辰男 氏
1940(昭和15)年生まれ。福岡県嘉麻市(旧山田市)出身。純真短期大学特任教授。
福岡県教育庁社会教育課主幹社会教育主事、同県立社会教育総合センター副所長などを歴任。2003(平成15)年、東和大学総合教育センター長・特任教授、2008(平成20)年より現職。1983(昭和58)年より「通学キャンプ」を企画・実践。1989(平成元)年度より旧庄内町立生活体験学校での年間20回の通学合宿の企画・実践に参画。